「働き口がない」
これは紛れもなく事実で、製造業・機械・食品メーカーなど毎週どこかが数十~数百人規模(たまに3000人とかも有)のレイオフを発表しています。レイオフ以外では、鉄道路線の廃止、営業所の閉鎖、サービスの縮小など何らかの形で毎月目にすることになり、これを見ているともうダメだとなるのは当然でしょう。
これは国策の違いで、競争力のない企業・市場分野は速やかに市場撤退(縮小または倒産)してもらって、その余剰人員は国の支援と再教育のもと、競争力・ニーズがある分野にシフトしてもらう、というのが社会資本主義(北欧諸国全体的な基本理念)です。もう年々崩れ始めてアメリカ化しているという指摘に事欠きませんが。。
特に顕著なのはスウェーデンで、業界一律の賃金体系が決まっており、その賃金水準を従業員に払えない企業(収益力のない企業)は市場から去ってもらう(つぶれてもらう)。解雇された人は国が提供する成長分野の職業訓練を受け、業界を変えて転職するというのが通例です。(業界一律の賃金体系はフィンランドでも導入済。ただし失業後の再教育制度が弱い)
フィンランドもこの例に漏れず、現在は医療分野、特に看護師のニーズが高まっており、学び直し&転職はは非常に有望、仮に40代~50代からの再スタートであってもほぼ間違いなく職が見つかる状況だそう。
http://yle.fi/uutiset/employment_oversupply_leads_professionals_to_learn_new_trades/8351129
一方、日本は逆の考え方で「弱い産業は国が補助し雇用を守る」というスタンス。大震災などの特例措置で戦後から何度も一時補助制度が導入されましたが、もう仕組みが浸透してしまっているようで、もはや衰弱した企業にいさぎよく市場を去ってもらうということが起こりにくい土壌になっています。
現に、僕の父親は建設業で80年代バブルの時は「ボーナスが札で出て、その札が縦に立った」ぐらいもらっていたと上ぶいていましたが、いまや交代で1か月無給休暇を取り、細々と少ない仕事を勤め先で回しているようです。(この従業員を交代で長期休業させることに関し、国から補助が出ている)
http://www.tkc.jp/jishin/joseikin.html
このように、解雇・会社清算を頻繁に行って競争力を保つ方法と、雇用を国が守って企業を長らえさせるやり方は考え方の対極にあって、どちらが良いかが国の考え方・働く人の考え方の違いでしょう。
ムリをせずにダメなものは受け付けないのが北欧で、多少ムリをしても、薄給でもなるべくみんなに仕事があるだけマシと考えるのが日本、といったところでしょうか。(前述の通り、その北欧も資本主義=個人・企業の方針・責任を経済の基本とする形に年々近づいているようです)
http://yle.fi/uutiset/finlands_poor_at_nearly_one_million/7437980
まとめると、「働き口がない」のは事実ですが、現象をどういう視点でとらえているのかが論点になります。どちらが健全か、長期的な価値観なども人それぞれで、この視点が異なる人は「現状は壊滅的だ」「レイオフが止まらない」など、負の側面として見えるものしか注目しないということが往々にしてあるでしょう。
「いろんなものの物価がずっと上がり続けている」
一部は上がり、別のものは下がり、1人あたりGDP(=収入)は減少傾向なので、大部分のものが高くなっているという感覚にはなると思います。この先は僕も勉強が必要ですが、もともと安いもの(食品)が最近は安くなる傾向にあり、住宅は地域差はあれどおおむね高騰している様子です(HelsinkiのTöölö地域の一部のマンションはNewYorkの高級住宅地と同じぐらいの価格になったそう)。
http://www.hs.fi/kaupunki/a1443237236718
http://www.stat.fi/til/khi/2015/08/khi_2015_08_2015-09-14_tau_002_en.html
http://www.stat.fi/til/rki/2015/08/rki_2015_08_2015-09-15_tau_004_en.html
食品物価の下落(特に乳製品・肉類)についてはEUのロシア制裁が大きいと言われています。輸出規制→フィンランドに余剰食品が出回る→供給過剰で価格低下→食品メーカーの収益低下→減産→レイオフ…という負の連鎖が国中にずっと続いているように見えます。
ちなみにフィンランドから一番近いロシアの大都市・サンクトペテルブルグは人口500万。フィンランドの総人口は500万強。この数字を見ただけでも、フィンランドがどれだけ巨大な商圏を失ったかがわかります。
最近ではロシア側も対応して西側諸国からの食品輸入を禁止、8月あたりに大きなニュースにもなっていましたが、すでに輸入されてしまったものは没収して廃棄している模様です。ロシア当局のコメントによると、「西側からの一部食品にはロシアで認可されていない添加物が含まれている。国民を守るために必要な措置だ」とのこと。ロシアの思惑としてはEUに取り込まれてしまいそうなベラルーシや、ウクライナをつなぐため、それらの国々から食品を積極的にロシアへ流通させてロシアとの関係を強固にする狙いがある言われています。…ということで2014年よりも2015年のほうがフィンランドにとって厳しい状況のようです。
http://www.npr.org/sections/parallels/2015/08/22/433507000/russias-war-on-western-food-detaining-cheese-crushing-frozen-geese
以降、あまり詳しくないのですが、フィンランドは新しい商圏をは探しているんでしょうか。現在はドイツが輸出先の第一位になっており、欧州移民危機の影響でドイツの食料需要はかなり増加していると見られています。しかし今後ドイツがフィンランドから排他的に食品を輸入するかというと、そうは断言できないので、フィンランドはドイツも含めて新しい市場を確保することに注力しないといけないでしょう。多かれ少なかれ、それがフィンランド経済に影響するでしょう。EUのロシア制裁が終わればかなり状況が改善されるはずですが、楽観視するのは危険そうです。
http://yle.fi/uutiset/finnish_exports_to_russia_down_more_than_35_percent/8251837
「国が滅ぶ」
言いきれないですけど、まずないと思いますw まずフィンランドの経済力はもともとかなり高く、2003年時点ではアメリカを抜いて経済競争力世界一でした。国家予算における借金比率は年々上がっていますが、日本とは比べ物にならないほど小さいです。
http://yle.fi/uutiset/finland_tops_competitiveness_table/5150269
つい先日、世界経済フォーラム (The World Economic Forum) のGlobal competitiveness rankingが発表になりましたが、いまだに北欧諸国の中で1位です。
http://reports.weforum.org/global-competitiveness-report-2015-2016/economies/#indexId=GCI&economy=FIN
一方で、不況回復の見込みが乏しいことも事実で、それはフィンランド財務省も「この先数年はほとんど成長できず、国家財政を立て直すほどの収入に結びつく税収は期待できない」と明言しているほどです。
http://vm.fi/julkaisu?pubid=7108
注目すべきは、この否定的で見込みがない状況においてもムーディーズ、フィッチレーティングがフィンランド国債をAAA評価としているところです。今までに国債格付けが高かった国が金融危機になるケース(例:アイルランド、アイスランド)がありましたが、フィンランドはそういった錬金術とは無縁です。
ではなぜそんなに評価が高いのか。企業と政府機関の透明度が高く(1位)、教育に重点を置き、技術革新(例:精密機械、バイオフューエル技術)に重きを置いているからだと言われています。
これは憶測の域を出ませんが、上記の財務省の自己評価がシビアで、現実に即した粉飾がないもの(=透明性のしるし)と見たのであれば、世界経済フォーラムからの評価とも一致します。
世界の評価は上記の通りですが、今後は教育予算のカットによる初等教育から大学教育までのクオリティ低下が心配されています。滅ぶは言いすぎですが、もしいま審議中の通り、教育予算がカットされた際には、今後の行く末が変わるかもしれません。
追記1:
追記2:
失業率について。毎年みんなが休みに入る5月ー6月頃に失業率は最大になり(約12%)、冬(12月)に最低値の8%になるというパターンを毎年繰り返しています。通年で見ると9%となり、月次の数値だけニュースで見て12パーセントて!となるのはちょっと短絡的です。
http://www.stat.fi/til/tyti/2015/08/tyti_2015_08_2015-09-22_tie_001_en.html
地方での仕事が消え、そのポジションは首都圏で募集されるという傾向があるようで、フィンランド全体の求人数は著しくは変わってませんが、地方での減少率は著しい模様。これにより失業率もエリアで異なる。また、外国人の大学・大学院卒業生の失業率はさらに高いようで、その背景には他欧州諸国と比べ、フィンランドが大学のアカデミックポジションに外国人(フィンランド語を話せない人)を採用したがらない傾向があるようです。また教授になるための教育を受けるためにはフィンランド語を話せることが必須とされ、これまでに多数の準教授・Lecturerがフィンランドを去ったようです。ただし、例外ケース(英語しか話さないアングロサクソン系が教授に就任するケース)も現れ始め、一概には言えない状況でもあるようです。
http://yle.fi/uutiset/overseas_academics_claim_discrimination_in_university_recruitment/7355139
政府の公式な数字は出ていませんが、ヘルシンキ大の調査によると卒業生の約50パーセントはフィンランドで就業せず、母国または第三国に渡るようです。移住理由は集計されていないため、当初からの予定によるものか、就業先が見つからないためかは不明。残りの約50パーセントが就業したかというとそうではなく、博士課程への進学(受験準備中含む)、主婦、育児休暇中など様々なケースも含まれるため就業率はかなり低いと見られています。
出典: Shumilova, Yulia; Cai, Yuzhuo; Pekkola, Elias (2012); Employability of international graduates educated in Finnish higher education institutions; Helsinki, Finland: University of Helsinki, 2012
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